BLAU DESIGN’s blog

前代未聞のモノを創る。モノづくり記録です。

世界一美しい鞄を創る⑩ 失意と希望

コチラの記事は以下のリンクで内容をリニューアルして公開しています。
ぜひこちらからどうぞ!

strange-life.me

 

先日の孤高の革職人、大島さんとの約束通り、翌日の夜10時に革工房へ向かう。

 

前回までの記事はこちら

blau.hatenablog.com

 

工房へは首都高速道路を使って約1時間。

外気は一桁。吐く息も白い。

 

石油ストーブの灯る工房の中では、ジャンパーを着た大島さんが、僕の預けた型紙にそって革包丁で革を切っている姿が。

 

 

「お疲れ様です!」

 

 

 

「おつかれーっす・・・(何故かいつもの笑顔なし)」

 

 

 

「どんな感じっすか?」

 

 

 

「そうっすねぇ、とりあえず何回かやってみてですかねぇ〜」

 

 

 

「そうっすよねぇ。(いつの間にか口調が移っている)

 

 

 

アルミのフレームに貼る革は、ベルポーレンと呼ばれる薄い芯材の上に、一回り小さくカットした高さ7mmの高密度スポンジを挟み、その上に本皮を縫い付ける。

つまり、素材で言えば3層になっており、スポンジだけがサイズが小さい。

 

これによって、革のパーツをアルミのフレームに貼り付けたときに、皮の部分が緩やかに膨らんで、色っぽくなる。

 

1枚の革をそのままアルミフレームに貼ってしまうだけでは、どうしても無骨になるし、世界一美しいブリーフケースにするためには、どの方向からみても優雅な曲線が必要だと、勝手に定義した。

 

大島さんの行程を見ると、

①下地のベルポーレンと牛革を同じ型紙でカットし、その型紙を端から25mm内側に小さくしたサイズでスポンジをカットしている。

 

②そして、スポンジに接着剤を塗って、下地のベルポーレンの中心に貼り付ける。

 

③その後、ベルポーレンのフチに接着剤を伸ばしたあと、ベルポーレンに貼ったスポンジの中心に牛革を乗せ、フチに伸ばした接着剤が乾く手前で牛革とベルポーレンのフチを手で摘むように押さえて接着していく。

 

 

接着剤は乾く手前が一番接着しやすいそうです。フムフム。

 

 

そして、仮接着が終わったところで周囲を平ミシンで縫い付けていく。

 

 

 

ここまでが大島さんのお仕事。

 

出来上がった革の3層パーツとアルミフレームを接着するのは私の仕事。

 

 

 

とは言え、この工房では私の仕事は無いので、ひたすらコンビニに行ってホットコーヒーを差し入れしたり、大島さんが深い溜息をしたら、甘いものを、鼻歌を歌っていたらソフトサラダせんべいを買ってきたりするだけだ。

 

フッフフー♪ → ソフトサラダ

 

 

さて、そうこうしているうちに、ミシンの音がやみ、3層に膨らんだ革のパーツが1つ出来上がった。

 

 

しかし。

 

 

三次元に歪んでいる。

 

 

例えば、両手にプラスチックの下敷きを持って、左右の手で逆の方へひねると、下敷きは三次元に歪む。

 

まさにそんな感じだ。

 

 

 

「結構歪みますねぇ」

 

 

 

「そうっすねぇ。。。

恐らく間に挟んであるスポンジの厚みの分、ベルポーレンか革のどちらかに負担がかかって、逃げようとするんすかね。 革が伸縮性のある素材なら、スポンジに高さがあっても、ベルポーレンにくっついてくれるんですけど、革はすぐに伸びないっすからねぇ。」

 

 

つまりこういうこと。

 

ベルポーレンも牛革も伸縮性がない。

その間に高さのあるスポンジを挟んで2つを縫い合わせると、どこかに負担がかかる。

その結果、ベルポーレンか革が

「伸びたいけど、伸びないよー」と言ってねじれる。

 

 

 

「ベルポーレンはフレームに貼るので大きさはこのままで良いと思うんですが、革の方を一回り大きくして、例えばスポンジの高さぶん、少し大きくカットしたらどうでしょう?」

 

 

 

「そうっすねぇ。。。 やってみないとわからないっすねぇ。」

 

 

 

「そうっすよねぇ。」

 

 

・・・・。

 

 

この時点で時間は深夜2時前。

 

 

大島さん、見た目に元気が無くなっています。

 

 

 

「・・・・次回にしましょうか。」

 

 

 

「そうっすねぇ。それまでに、時間があればやってみますね。」

 

 

 

こればかりは仕方がない。。

 

 

次回は明後日の22時に約束をして、車に戻ります。

 

 

 

 

収穫無し。

 

 

 

 

いや、逆に簡単に考えていた革の貼り合わせパーツ。

障壁が高いかもしれない。少し失望。

 

 

ここは頭を切り替えて、新しいものへのチャレンジをしよう。

 

 

 

ケースの表面処理だ。

 

 

 

デフォルトはアルミの金属面をだし、それにブラスト処理とアルマイト処理をして、Mac bookとほぼおなじ肌感を再現した。

 

 

もう一つチャレンジしたいのが、

 

 

ピアノ塗装だ。

 

 

これはアルミの表面にグランドピアノと同様の塗装をしてみようというモノ。

 

世界広しと言えど、ブリーフケースにピアノ塗装を施している鞄は無いと思う。

 

 

なぜピアノ塗装?

 

 

ということだが、アルミの表面処理は一般的にアルマイト処理でほぼ完結してしまうが、もっと他の表現方法はないだろうか?と言う単純な発想で「塗装」という選択肢が出てきた。

 

そもそも、一部の車ではアルミのボディに塗装が施されているんだから出来るだろうと。

 

そして、塗装のなかで最高峰の技術の1つがピアノ塗装だ。

 

黒の「奥」が深いという感覚がある。

 

 

 

国内でピアノのメーカーと言えばヤ◯ハ。

早速電話をかけてみる。

 

 

 

ピアノを塗装している工場を教えてもらおうと思って軽~く電話をしてみるも、

 

おしえてあーげない!

 

と言う予想通りの答えです(笑)

 

まぁ、基本的にこんなことは想定内なので、もう気にしません。

 

 

 

ということでGoogle先生

 

「静岡 塗装 ピアノ」で検索すると、良さそうなところが1つヒットする。

www.piax.co.jp

 

 

そこは、ピアノはもちろん、それ以外の部材、例えば家具など積極的に独自のピアノ塗装を施している面白い企業だ。

 

 

早速電話でアポをとり、新幹線と在来線に揺られて静岡の会社へ。

 

 

会議室に通されて旅の一息をついていると、電話でお話したご担当者が現れた。

 

最初に鞄のあらましと、構造に関してお話したあと

 

 

 

「と言う訳で、日本最高峰の御社の塗装技術で、この鞄にピアノ塗装を施したいのです。」

 

  

 

「アルミにピアノ塗装ってのはやったことないんですよね。車とは基本的に塗装の方法や塗料が違うので、別物だと考えてください。それと・・・。」

 

 

 

私「はい」

 

 

 

「先ほどおっしゃった『サンプル』としては、弊社としてもお受けすることは可能ですが、仮に量産されれる場合はお受けすることは出来ないと思います。」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

「というのも、製品版になると、かなりのテストをしないと製品版としては出せないんです。アルミに塗装という未知の分野ですと、万が一製品版で塗装の剥げなどの問題が出た場合、それは弊社の瑕疵になってしまうので。。。」

 

 

そんなもんなんでしょうか。

 

 

しかし、今はそんなことより、展示会に向けたサンプル作りが優先です。

 

 

ピアノ塗装用にアルミフレームを1つ預け、2週間後の完成を待ちます。

 

 

 

 

そして、2週間後、ピアノ塗装されたフレームが送られてきました。

 

 

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WoW!

 

想像以上に美しい!

 

今までに見たこともない黒の深み!

漆と同じかそれ以上の奥深さ。

 

なんでも『塗装』→『研磨』の行程を七回繰り返すらしい。

ひゃぁ〜

 

白の本革とのコンビネーションが最高じゃねぇか。

 

 

テンションマーックス!

 

 

触ると指紋がつくが、そんなの関係ねぇ。

 

 

新たな希望と共に、

 

革パーツの不安は依然残されたままである。

 

 

完成版はこちら

www.blau.tokyo

 

 

世界一美しい鞄を創る⑪へ続く

blau.hatenablog.com

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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